第13章
矢野純平はその派手なフェラーリの横に立ち、二人が出てくるのを見て口笛を吹いた。
「やあ！植田、何という偶然でしょう！」
植田真弥は冷たい目で彼を一瞥したが、何も言わなかった。
植田真弥のこの冷たい態度には矢野純平はもう慣れていた。今日彼が来たのは、むしろ植田真弥の隣にいる女性に興味があったからだ。
「また会いましたね！植田の彼女か？お二人はどれくらい付き合っているの？」
彼が立て続けに質問を投げかけたことで、植田真弥の表情はさらに険しくなった。
「私は彼の妻です。もう婚姻届を出しました」
水原遥は事実を告げ、隠すつもりはなかった。ただし、話す際に植田真弥の方をちらりと見て、彼が特に反応していないことを確認した。嫌がっていないようだった。
「なんだって？！結婚？」
矢野純平は口を大きく開け、完全に驚いていた。植田真弥が何も言わずに結婚していたとは思いもよらなかった。
「昨日はごめんなさいね。今日時間があれば、食事にいらっしゃいよ」
水原遥は昨晩考えた末、あのまま地下鉄駅に彼を置いていくのは良くないと思った。
矢野純平は水原遥の白くて整った顔を見て、すぐにでも承諾しようとした。
「お前、毎日暇なのか？」
植田真弥は彼を睨みつけた。その眼差しは刃物よりも鋭く、彼の体に穴が開きそうなほどだった。
「水原さんが食事に誘ってくれたんだ。お前に何の関係がある？嫉妬してるのか？」
矢野純平はにやにや笑いながら肘を植田真弥の肩に乗せようとしたが、植田真弥が一歩後ろに下がったため、彼はほとんど地面に倒れそうになった。
水原遥はこの二人の関係性を見て、本当に不思議だと思った。
「植田さん、私の車は今叔父のところにあるから、時間があったら取りに行ってね。それからはあなたが使って。そうすれば通勤も便利になるでしょ」
水原遥は彼が毎日あの古びたヒョンデで通うのはどうかと思った。あの車は少なくとも10年以上は経っているはずだ。
彼女の車は自分のお金で買ったものだし、水原家のお金は使っていない。
「先に行くわ」
彼女は植田真弥に手を振り、マンションの外へ向かって歩き始めた。
「水原さん、送ろう！」
「このクルマ、パワーがあるんですよ」
水原遥は振り返って道端に停まっているフェラーリを見て、笑いながら言った。「結構です、一人で大丈夫から！」
あんな目立つフェラーリで職場に行くなんて、正気の沙汰ではない。
水原遥の姿が視界から消えると、矢野純平はようやく眉を上げて植田真弥に向かって言った。「説明しないの？この奥さんのこと？」
彼は下を見て、水原遥が植田真弥に与えた車がアウディであることに気づいた。
まあまあだな。
「お前に関係あるのか？」
植田真弥は手にある車の鍵を見つめ、それをポケットに入れた。
「どうして関係ないの？水原さんはお前のガレージにある車が一台でも何台ものアウディが買えるほど高価だってこと、知らないのか？」
植田真弥はイライラし始めた。「何しに来たんだ」
「昨日お前が調べてくれって言ったからだろ。結果があった。佐藤隆一は昨晩確かにこのマンションに来ていた。しかも監視カメラによると、お前たちの住んでいる棟に上がったみたいだ」
そこまで話すと、植田真弥の周りの空気はすでに限界まで重くなっていた。
「廊下の監視カメラでは、彼が水原さんを非常階段に引っ張り込んだのが映っていた。非常階段には監視カメラがないから、何があったのかはわからないけど、20分後に水原さんが出てきたんだ。様子を見る限り、大丈夫のようだ」
もし本当に何かあったなら、水原遥は泣きながら出てきたはずだ。
しかし監視カメラを見る限り、水原遥はその時比較的落ち着いていたように見えた。
植田真弥は何も言わず、マンションのセキュリティオフィスに向かって歩き始めた。
「おい、何か言えよ。その奥さん、前は佐藤隆一の婚約者だったんだろ？どこか見覚えがあると思ったんだ」
矢野純平はまだしゃべり続けていた。
植田真弥はセキュリティボックスに着くと、すぐに携帯から佐藤隆一の写真を取り出し、警備員に見せた。
「この男は、今後入れるな」
警備員は少し驚いた。このマンションは特別高級とまでは言えないが、住民が訪問者を登録する必要はなかった。
彼はこの写真の男性を覚えていた。入る時に彼女に会いに行くと言っていた。
「お客様、何か問題でも？」
「彼は若い女性に危害を加えようとした。テロリストだ。もし今後彼を入れて何か起きたら、お前が責任を取るのか？」
警備員にはもちろんそんな責任を取る覚悟はなく、頷いて二度と彼を入れないことに同意した。
……
水原羽美は数日間病院に滞在し、胎児が安定するのを待って退院する準備をしていた。
水原奥さんが車で迎えに来て、車内で彼女は水原遥の電話番号にかけた。
水原遥は着信表示を見て一瞬驚いた後、嫌そうに通話を切った。相手がまた電話をかけてくるのを防ぐため、彼女はその番号をブラックリストに入れた。
水原遥の会社はメディア企業で、最近株式公開の準備をしており、忙しいことがたくさんあった。
彼女は数日間会社を休んでいたため、今日出社したら仕事が山積みで頭がくらくらするほどだった。
やっと昼になり、同僚たちが一緒に昼食を食べに行かないかと誘ってきた。
以前、水原遥はいつもお昼に佐藤隆一と食事をしていたが、彼が忙しくて時間がないと言うこともあった。今考えると、そういう時は水原羽美と過ごしていたのだろう。
彼女は笑顔で頷いた。「いいわよ、今日のランチは何にする？下のあの料理店はどう？」
彼女は同僚たちと笑いながら階下に向かったが、会社の入り口で車から降りてくる佐藤隆一と水原羽美に出くわすとは思いもよらなかった。
一朝懸命働いた朝の後に、彼女が最も会いたくない二人に会ってしまい、水原遥の顔はすぐに曇った。
同僚の何人かは彼女の元婚約者だと気づき、彼女の手を離し、「じゃあ、私たちは先に食べに行くね。処理が終わったら来てね！」と言った。
水原羽美は佐藤隆一の腕に手を添え、笑顔で水原遥を見つめた。「お姉さん...」
水原遥はすぐに遮った。「何しに来たの？」
水原羽美は辛そうに目を赤らめ、隣の佐藤隆一を見てから口を開いた。
「今日電話したけど出なかったから、会いに来たの。隆一兄ちゃんが一人で来るのを心配して、どうしても送ってくれたの」
水原羽美はそう言った後、佐藤隆一の胸に寄り添い、愛らしい小鳥のような様子を見せた。
佐藤隆一は彼女の腰を抱き、言葉こそなかったが、まるで仲の良い夫婦のようだった。
「前のことはとても不愉快だったけど、今はお父さんも退院したし、私たちの考えは、一緒に食事でもして、この件はこれで終わりにしない？これからは二度と触れないで、私たちはまた一家族として」
